【入門】ファントムシータの「レトロホラー」って何?——Adoが作り出した”怖くて美しい”アイドルの正体

アイドル・地下アイドル

TikTokのコメント欄に、英語やスペイン語の書き込みが増えている。

Adoがプロデュースするレトロホラーアイドル・ファントムシータへの海外からの注目が、じわじわと広がっている。「Ado系統の次世代」「ホラーかわいい(horror kawaii)」という言葉とともに、海外のアニメ・JPop界隈のSNSで話題に上がることが多くなってきた。

デビューから約2年。初ワンマンが日本武道館、その後すぐに海外14都市を巡る世界ツアー——という異例の速度で駆け上がってきたグループが、今なぜ再評価されているのか。背景から整理する。


ファントムシータとはどんなグループか

まず基本情報を整理しておく。

ファントムシータ(英語名:Phantom Siita、漢字表記:怪忌蝶)は、歌い手のAdoが2023年末に開催したオーディションで約4000人の中から選ばれた女性アイドルグループだ。現在のメンバーはもな・美雨(みう)・凛花(りんか)・百花(もか)の4人。所属事務所はAdoと同じCloud Nine、レーベルはUniversal Music Japan(Capitol Records)。

グループ名の「ファントム(Phantom)」は「幻影・亡霊」を意味し、「シータ(Siita)」は毒蝶・アサギマダラの学名とアゲハモドキの学名を組み合わせた造語だ。漢字表記の「怪忌蝶」が示すように、現代アイドルを「蝶」とするならば、ファントムシータはアイドル業界の異端である「蛾」——怖いと知りながら手を伸ばしたくなる、恐ろしくて美しい存在というコンセプトが込められている。

ファン名は「ハイネ(haine)」。フランス語で「憎しみ」を意味する言葉で、蛾の学名「Epicopeia hainesii」から取られている。グループの世界観がファン名にまで一貫して宿っているのが特徴だ。


「レトロホラー」って何なのか——コンセプトの正体

ファントムシータのコンセプトは「レトロホラー」だ。ただ、これを「ホラーな見た目のアイドル」と捉えるのは正確ではない。

メンバーのもなはインタビューでこう説明している。「ホラー」はお化けや怪異ではなく、人の内側に秘めている黒い感情のことだ。恋愛が絡んだり、友情を欺いたり——そういった感情に感じる「怖さ」がここでいうホラーを指す。「レトロ」も昭和の様式を再現するということではなく、昭和のアイドルが持っていた儚さや手が届かなそうな雰囲気、語り継がれるアイドルの原点のようなものを指している。もなはさらにこう続けている。「怖いとわかっているのに、もっと知りたくなる。そういうものを目指している」と。

つまり「レトロホラー」とは、人間の感情の暗部と昭和アイドルの美学を融合させた世界観だ。楽曲の歌詞には「血が見たい」「死刑 死刑 死刑」といった過激な表現が登場する一方、メロディやビジュアルは「かわいい」という印象を持たせる。この落差こそが、海外の視聴者に「horror kawaii」という言葉で語られる理由だといえる。


デビューから現在まで——異例の速度で駆け上がった2年間

ファントムシータの歩みを時系列で整理すると、その速さに驚く。

・2023年11月:Adoがオーディション開始(約4000人が応募)
・2024年6月26日:デジタル1stシングル「おともだち」でインディーズデビュー
・2024年7月〜10月:Adoの全国ツアー「モナ・リザの横顔」全公演オープニングアクト
・2024年11月:1stアルバム「少女の日の思い出」リリース
・2024年11月:初ワンマンライブを日本武道館で開催
・2025年1月〜2月:世界ツアー「Moth to a flame」(海外14都市)
・2025年5月:「すき、きらい」でUniversal Music Japanからメジャーデビュー
・2025年11月〜12月:Adoのドームツアーのオープニングアクト担当
・2026年1月1日:AdoとともにTHE FIRST TAKE初出演
・2026年6月24日:2ndCDシングル「ホラークイーン」発売予定
・2026年7月〜8月:Zepp全国ツアー「ふぁんとむ♥らんど」開催

デビューからわずか半年で武道館、1年以内に世界14都市ツアーというスピード感は、アイドル業界では前例がほとんどない。Adoというバックグラウンドが持つ海外への発信力が、通常のアイドルとは全く異なるスタートラインを作ったといえる。


メンバー4人を紹介

現在のメンバーは以下の4人だ。

・もな:グループの中心的存在。落ち着いた語り口の中に確かな表現力を持つ。
・美雨(みう):クールでシャープな印象。楽曲を「機械的な冷たさ」として解釈するなど独自の感性を持つ。海外ファンからの人気が特に高く、英語でのコメントも多い。
・凛花(りんか):しなやかなダンス表現が特徴。オーディション時、「レトロホラーという言葉を初めて聞いたのはオーディションの場だった」と語るほど新鮮な視点でコンセプトに向き合っている。
・百花(もか):力強いパフォーマンスで存在感を放つ。

なお、デビュー時は5人組だったが、灯翠(ひすい)が2025年5月に脱退を発表。現在は4人体制で活動している。


海外ファンはこう見ている——現地レポートとSNSの反応

2025年の世界ツアー「Moth to a flame」でマニラ公演を取材したフィリピンのメディアは、こんな感想を残している。「赤と黒のゴシックスタイルに身を包んだ若いファンたちが会場を埋め尽くし、彼女たちは自分たちと同じ感性を持つグループを見つけたように見えた」と。セーラームーンの主題歌「ムーンライト伝説」からチェンソーマンの「KICK BACK」まで、昭和〜現代を横断するカバー曲のセットリストは、「日本のポップミュージックを時代を超えて旅しているようだった」と評された。

TikTokでは「#phantomsiita」「#jpop」タグの動画が英語・スペイン語・ポルトガル語のコメントで溢れており、「her voice is so intimidating(in a good way)」「i love miu’s english so much」「PHANTOM SIITA SUPREMACY」といった投稿が国境を超えて拡散している。

言語の壁を越えてファンが熱狂しているのは、ビジュアルと音楽の世界観が言葉なしで伝わる強さを持っているからだといえる。


Adoとファントムシータはどこがどこまでつながっているのか

「Ado系統の次世代」という言葉をよく耳にするが、実際に両者の音楽スタイルはどう重なり、どこが異なるのか。

■ 共通する「怒り・痛み・狂気」の感情表現

Adoの代表曲「うっせぇわ」は社会への怒りと抑圧された感情を爆発させる楽曲だ。「踊」は狂気的なエネルギーで聴き手を圧倒する。ファントムシータの楽曲「キミと××××したいだけ」「おともだち」も、恋愛の執着・友情の裏切りという人間の黒い感情を題材にしている。「かわいい・楽しい」ではなく「怖い・暗い・狂っている」を肯定するという姿勢が、両者に共通する大きな軸だ。

■ 違いはソロとグループ、完成品と成長物語

Adoは顔出しなし・ソロアーティストとして完成した形でデビューし、その神秘性がブランドの一部になっている。一方ファントムシータは4人のメンバーが顔を出し、成長の過程を見せていくアイドルグループだ。メンバーの脱退・新体制・ツアーでの経験の積み上げといったドラマが、長期的なファン関係を生む。「完成形を見せる」Adoと「一緒に育てる」ファントムシータ——この違いが、似たような感性を持ちながらも異なるファン層を作り出している。

■「日本らしさ」を前面に出した海外戦略

世界ツアーでのセットリストには、中森明菜・松田聖子・セーラームーンといった日本の昭和ポップカルチャーへのリスペクトが込められている。美雨はインタビューで「レトロなスタイルがあることで、若い世代だけでなく親世代にも届けられる」と語っている。K-POPが「普遍的な格好良さ」で世界を獲りに行くのに対し、ファントムシータは「日本固有の怖くて美しい感性」を武器にしている。この差別化こそが、海外のJPop・アニメファンの間で「唯一無二」として認識される理由だ。


今後の見どころ——Zeppツアーと2ndシングル

2026年の活動は密度が高い。6月24日には2ndCDシングル「ホラークイーン」のリリースが控えており、7〜8月にはZepp全国ツアー「ふぁんとむ♥らんど」が予定されている。

・7月11日(土):福岡・Zepp Fukuoka
・7月19日(日):札幌・Zepp Sapporo
・7月25日(土):大阪・Zepp Osaka Bayside
・7月26日(日):愛知・Zepp Nagoya(SOLD OUT)
・8月1日(土):東京・Zepp Haneda(TOKYO)
・8月13日(木):追加公演 KT Zepp Yokohama

愛知公演はすでにSOLD OUTとなっており、チケットの入手には早めの動きが必要な状況だ。


考察|ファントムシータは「Adoの次世代」になれるか

率直な考察をしておく。「Adoの次世代」という言葉は、期待であり、同時にハードルでもある。Adoは「うっせぇわ」という圧倒的なデビュー曲で日本中を驚かせ、その後も連続でヒットを生み出してきた。同じ土俵での比較は、ファントムシータにとって最初から不利な戦いになる。

しかしファントムシータには、Adoとは異なる強みがある。アイドルというフォーマットが持つ「一緒に育てる」感覚、「ホラーかわいい」という唯一無二のポジション、そして「日本固有の感性」を武器にした海外戦略——これらはAdoとは別の軸で戦える力だ。

BiSHはデビューから東京ドームまで約8年かかった。ファントムシータも同じように、結果が出るまでには時間がかかるだろう。しかし、今すぐ「次世代」を証明しようとするのではなく、世界観を積み上げ、ファンと一緒に歩み続けることに意味がある。

デビューから2年、まだ多くの人にとってファントムシータは「知らないグループ」だ。しかしその世界観は、知れば知るほど「ハマる」構造になっている。今がちょうど、知り始めるのに良いタイミングかもしれない。

📝 ファントムシータの公式サイトはphantomsiita.com。X(@PhantomSiita)、TikTok・Instagram(@phantom_siita_official)でも最新情報を発信している。

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